『汗は流した分だけ実るもの』
お客様、なぜ当看板屋を選んでくださったのですか?
素朴な疑問を問うてみた、
「あぁ、看板屋さん国道筋で目立つから、
それで事務員さんにホームページで検索してもらって・・・・」
あっ、さようですか、
「ほんま、看板は目立ってなんぼやね」
こちらの言うべき台詞が向う様より、
ありがたや、ありがたや、
アイミツもなく、ほぼ成約になるであろう予感、
そうなんです、
最近は、電話の第一声で、ほぼ、わかるんです、
あっ、この手ごたえは鯛、それとも鯵、
えぇ、釣り上がってみて、長靴だったなんてこと
しょっちゅうですケド
昨日なんかも、値段、教えて、教えて
今すぐ、即の即答・・・・・・・
ゼッテイ、冷やかしに決まってらい、
それでも性格がいいのでしょうか、懇切、丁寧に応接、
それから4時間くらい後、
「あの〜、それでは、いついつ、現場調査に来てください」と
先刻のお客様、
「は、はい、ありがとうございます、あの〜殆ど決まりですよね」
「えぇ、数多の看板屋さんの中で一番感じがよかったものですから・・・・・」
そうでしょうとも、皆さん、そう、おっしゃられます・・・・・・
など、胸で思っても、口にゃ出さない奥ゆかしさで
なぜかしらないけど、ほっぺたがニンマリする
ニヤけちゃイケないと思うのに
いつも、寡黙なのに妙に饒舌、
ん、もう、素人じゃないんだから右から左に受け流してさぁ
だって、
「あっしは、もう銭勘定、し始めてますぜ」
「銀ちゃん、獲らぬ狸の何とやらになっても私ァ知らないよ」
「あっ、富次姐さん、狸の四畳半ですかぁ?」
「相変わらず、馬鹿だねぇ〜」
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「きみ嫁けり 遠き一つの 訃に似たり」 高柳 重信
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