『風の吹かない街』
「どうしたい銀の字、浮かネェ顔して」
「あぁ、与太郎さんかぁ」
「与太郎さんかぁって、随分愛想のない物言いだねぇ」
「いやぁ〜、昨日付けた看板が気に入らねぇって、さっき番頭さんから・・・」
「へぇ〜、だって番頭さんも昨日は、あんだけ喜んでたじゃないか」
「そ、そうなんですよ、それが今朝、お店の、ご主人が、ご覧になって
どうも、今ひとつ気に入らねぇって・・・・・」
「どこが気に入らねぇって?」
「それが、あっしにも番頭さんにも、よくわからねぇんでさぁ」
「そりゃ、銀ちゃん、あれだよ、たぶん、値段が気に入らねぇんじゃ、
試しに 一割値引きさせていただきますっとか・・・
何とか言ってみなよ」
「はぁ〜」
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「・・・・で、銀ちゃん値引きの件、どうだった?」
「それがさぁ、あんなに仏頂面してた主人が、値引きの話、聞いた途端、
番頭さんに『いいものを作ってくだすった』と、こう、看板屋さんに
伝えておくれって・・・・・・何だかなぁ・・・・・」
「やっぱりねぇ、そんなことじゃねぇかと・・・・・」
「でも、番頭さんは、しきりに謝ってくれて、この埋め合わせは、きっと、
させてもらうから・・・・と」
「そうかい、何にしても商いって難しいねぇ〜」
・・・・・なんて与太郎さんから、言われちゃ〜
まぁねぇ、「与太郎」って名前が、説得力に欠けるようだけど・・・・
まぁ、世の中、こんなもんじゃ・・・・ないのでしょうかねぇ〜。
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