『車窓より、行く春を眺む』
伊佐蔵さん、そんなに飲んじゃ
明後日、無事に箱根を越えられませんぜ、
わかってる?
わかってたら、その徳利から手ェ離してさぁ
酒ばかりじゃなく・・・・
えっ、ワインも飲んでる?
違いますよ、何か酒の肴も・・・食さないと・・・・
何、銀ちゃんのとり止めのない話が一番の肴だって?
嬉しいねぇ〜
改めて断っておきますが、あっしの話は、本当に、
正真正銘、とり止めなんて・・・・
くだらない話でずぅ〜と喋りっぱなしで突き当りまで言って
角曲がって帰ってくるくらい、とり止めがぁ?・・・・ないよ。
伊佐蔵さん、もうそれ以上飲んじゃ、身体に・・・・
お前も飲め?どうしても、
この下戸の銀次郎に、・・・飲まなきゃ・・・ダメ?
そんじゃ、一杯、ほんとに一杯だけですよ、
「クィーっ」
何か五臓六腑に染み渡りますねぇ〜
えっ、飲みっぷりがいいから
もう一杯どうだ?
んなぁ、もう、ダメですったらぁ、これ以上飲んじゃったら・・・・・
何、呑まねぇと 、今後は友達でも、知り合いでもない
ただの仕事人仲間の一人にすぎないって
そこまで言われちゃ・・・ただし、これっきり・・・ですよ
「ググッー」っと
あぁ、生き返るねぇ〜(あぶねぇ、あぶねぇ)
・・・で伊佐蔵さんよ、三杯飲まなきゃ何かいけないことでも・・・
そんなものは・・・・ない?
あっそう、んじゃ、それほど、勧められて、断っちゃ
折角の座がしらけるってもんで
さぁ、早く注ぎなよ
えっ、もう・・・ない?
「オ〜イ親父ィ、熱燗・・・まどろっこしいねぇ冷でもいいから・・早く・・・」
「小春ぅ〜酒、買って来い、酒や、酒や・・・・」
あ〜ぁ、春団冶かいな
だから、伊佐蔵さん言わねぇこっちゃない
勧めちゃだめだって・・・・・
「えぇ〜何だよ・・・・酒・・・・まだぁ?・・・・ウィ・・・・」
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「ゆく春や 逡巡として 遅ざくら」 蕪村
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